Saturday, August 6, 2011

モイーズ率いるエヴァートン、復権への想い

一時期はトップ4を脅かす一番手となっていたエヴァートンは、近年なかなかその位置に近づけずにいる。昨季も開幕時の躓きが尾を引いて、終盤追い上げたものの、ヨーロッパの舞台には届かなかった。近年は財政難も叫ばれ、補強もままならない状況の中、監督のデイビッド・モイーズがどのようにチームをまとめ上げているのか。「インディペンデント」紙のサイモン・ハート記者による記事。


++(以下、要訳)++

今晩、最後のプレシーズン・マッチの相手としてヴィジャレアルをグッディソン・パークに迎えるエヴァトニアンたちの脳裏には何が浮かぶだろうか。

2005年にチャンピオンズリーグのグループステージに挑んだエヴァートンは、このスペインのクラブに一歩及ばずに散った。ファンは、ピエルルイジ・コッリーナの不可解な判定にダンカン・ファーガソンの重要なゴールを取り消されたことをよく覚えている。

エバートンはホームで1-2で敗れた後に、マドリガルに乗り込んだ。ミケル・アルテタのフリーキックで1-1の同点にした後、コーナーキックからのボールをファーガソンが力強くゴールに押し込んだ時、タイの立場に追いついたと思った。しかし、コッリーナはこのゴールを認める代わりに、マーカス・ベントとゴンサロ・ロドリゲスに接触があったとして笛を吹いた。TVカメラの映像を見る限り、2人はさしたる押し合いをしていたわけではなかった。ヴィジャレアルは、2点目のゴールを突き刺してエヴァートンの傷に塩を塗りこむと、準決勝まで進出した。エバートンはそれ以来、この現代フットボールの約束の地には近づいていない。

ミケル・アルテタはヴィジャレアルは避けたい相手だと警告していた。モイーズとグッディソン・パークで8年間を共にしたミック・ラスボーンは、当時を4位でシーズンを終えた後の「とんだ目論み違い」と表現してこう振り返る。「ヴィジャレアルを引いた時はみな沈黙したよ。当たりたくない相手だった。モイーズは、エヴァートンを変えるチャンスで、トップ4のクラブにできると信じていた」そして、コッリーナの判定を後に確認し、それが「見え透いた誤審」だったと分かった時には、怒りに満ちた失望を味わった。

モイーズ政権の10年目が近づくにつれ、来年の5月にはクラブはどうなっているのかという疑問が渦巻いている。クラブが最後に9度目となるリーグ・タイトルを獲ったのは25年前だ。エヴァートンを支える人々も、移籍マーケットでモイーズをサポートするための投資をちっともできないオーナーのビル・ケンライトとその幹部たちに向け、苛立ちの声を強めている。

エヴァートンの負債はおよそ4,500万ポンドと見積もられ、CEOのロバート・エルストンはクラブ公式サイトのブログで「資金を絞り出すのは今までになく厳しい」と述べている。隣町のクラブとのコントラストは明らか過ぎるくらいで、リバプールの監督であるケニー・ダルグリッシュが2011年に向けて1億ポンド相当の選手を補強したのに対し、モイーズがこの1年の間に費やした資金はわずかに200万ポンドだ。それでもなお、誰かを買うにはその前に売る必要がある状況だ。

ケンライトへの批判は、キングス・ドック、カークビーへの移転の失敗にも向けられている。グッディソン・パークが17年間に渡って手付かずの状態であるということは、試合の日にはオールド・トラフォードの5分の1の収入しか生めないことを意味している。今週もクラブに抗議する複数のグループが、停滞と不透明さに不満を表するプレスリリースを出している。

メンバーの一人であるデイブ・ケリーは「エヴァトニアンが買うには売らねばならない、という状況に慣れてきてしまっていることは悲しいことだ。7位で終えることを望み続けるか、スイッチを入れるかだ」と語る。ディフェンダーのシルヴァン・ディスタンでさえ、ツイッターでファンからモイーズがチャールズ・エンゾグビアに興味をも持っているという話について聞かれて、「残念だが今のウチには誰も買うことはできないみたいだ」と答えていたくらいだ。

24ゲームを2敗で切り抜ける素晴らしいフィニッシュを見せ、主力の流出もなく大きな期待感のあった昨年の夏とは大違いの状況だ。当時はサー・アレックス・ファーガソンもモイーズを讃え、チャンピオンズリーグも手の届くところにあるはずだ、と言ってたくらいだ。しかし、開幕ダッシュの失敗と信頼できるストライカー不足が高い代償となった。モイーズは今でもストライカーを必要としているし、ヤクブとジョセフ・ヨボの売却で資金の捻出も図っている。今問われているのは、フィル・ジャギエルカのような資産ですら手放すのか、それともローン移籍頼みで行くのかということだ。

ラスボーンは、この財政難の下であってもクラブ本部は悲運と憂鬱の陰に覆われているわけではない、と語る。彼の書いた自伝である『The Smell of Football』では、彼によるモイーズの方法論への洞察が描かれ、「モイーズが壁に頭を打ちつけて嘆いていると考えるのは誤りだ」と述べている。

どのプレシーズンにおいても、モイーズは「新鮮さと刺激をもたらすために、凄く小さなことにも注意を払っていた」と、プレストンでもモイーズと仕事をしていたラスボーンは言う。「一昨年の夏には、一人か二人の選手にベストを着せ始めたが、それは我々がその選手たちがトレーニングで何をしているのか、キチンと把握するためだった。2,000万ポンドで選手を買うのとは違う話だが、皆の肩を叩いて『やってやろうぜ』と声を掛けるんだ」

エヴァートンのアカデミーにも進化が見られ、プレシーズンで活躍を見せた17歳のロス・バークリーはクラブの希望のひとつだ。イングランドU-19で負った骨折からも回復した。クラブの切迫した状況は、強固なチームスピリットを生んでいて、高く評価される2人のイングランド人ディフェンダーであるフィル・ジャギエルカとレイトン・ベインズのどちらも、急いで出て行くそぶりなど見せない。ラスボーンも「私は、エヴァートンのタイトなメンバーとタイトなスタッフが、現代フットボールでは極めてユニークな状況を生んでいると思う」と語っている。

仮に、モイーズが昨年12月に通算400試合を前に語った「何らかのタイトルを獲る」という希望をこのかつてマージーの富豪と言われたクラブで実現するとしたら、この背水の陣とも言うべき状況でのクオリティが欠かせないものなのだろう。


- モイーズのベスト・バイ6 -
ティム・ケーヒル(200万ポンド、ミルウォール/2004)
ミケル・アルテタ(220万ポンド、レアル・ソシエダ/2005)
フィル・ジャギエルカ(400万ポンド、シェフィールド・ユナイテッド/2007)
スティーブン・ピーナール(205万ポンド、ボルシア・ドルトムント/2008)
シーマス・コールマン(6万ポンド、スリゴ・ローバーズ/2009)
ランドン・ドノバン(ローン、LAギャラクシー/2010)

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