Monday, December 26, 2011

ヘンリー・ウィンターが振り返る2011年

年末の時期になって、各メディアも1年を振り返る記事を出し始めている中でピックアップしたのは「テレグラフ」紙。おなじみのヘンリー・ウィンター記者が1年を振り返った。


++(以下、要訳)++

今年一番の試合:マンチェスター・ユナイテッド 8-2 アーセナル

単純に驚いた。アーセナルは王者に瞬く間に凄まじいテンポで切り裂かれた。特にウェイン・ルーニーの破壊力は格別だった。アーセナルは従順そのもので、アンドレイ・アルシャビンとトーマス・ロシツキの最低のパフォーマンスが際立った。クラブの公式サイトであっても「アーセナルが浴びる10ゴールの恐怖」とまでは敢えて書かないだろう。これは明確な恥晒しだった。



今年一番のチーム:バルセロナ

抵抗する方法の見当たらない、ボール奪取の修行僧たちとボールを操る手品師たちの組み合わせ。歴史上最も偉大なチームで、革新的でもある。戦術的には、バルセロナはフットボールをそのプレス万華鏡のようなパス交換で別のレベルへと導いた、マンチェスター・ユナイテッドがウェンブリーでのチャンピオンズリーグ決勝で数分間でも渡り合ったのはよくやった方だと思う。


今年一番のヒーロー:リオネル・メッシ

最高のひと言。このアルゼンチン人はボールにタンゴを教え、シミーを踊りながらエリアに侵入していった。スタイルやプレー内容すべてに、メッシはさらにフットボールを愛するファンを抱えている。その天賦の才能と働きぶりで、バルセロナの魔術師たちの長として余計な駆け引きなどしない。そしてメッシはピッチ外での謙虚さで、人間としても選手としても稀な礼儀正しさを持つ男として際立たせている。

今年一番の悪党:ゼップ・ブラッター

未だにその地位にあり、未だに困惑を与え続ける。誰も老犬に新しい芸を教えられないとは言っていない。性差別に同性愛嫌悪と続き、今度は人種差別が握手で解決できるなどというバカげたコメントを出した。狂気としか思えない。FA嫌いとともに広がるブラッターの支配は、彼が2015年までは辞めないことも意味している。フットボールにスキャンダルをもたらす学校の校長が愚かなコメントと論争を出し続けるのは、あとたった4年。ゾッとする。

今年一番の小競り合い:バロテッリ対ビブス

最高のコメディ。


今年一番のツイート

「この間ハムレットを見たが、残念なことに最後にはほぼ皆死んでしまった。これだけ多くの言葉が何の意味ももたらさないのを初めて経験したが、それでも素晴らしかった。俺のインタビューみたいなもんだな」(イアン・ホロウェイ) - チャーリー・アダムについて繰り返される質問に答えて。

大事にしたい記憶

今年5月、35年の月日を経てマンチェスター・シティが遂にFAカップを獲得した時の、人々の誇りと喜び、そして信じられない、という様子。これまでの荒れた道のりと、隣のクラブからの冷やかしは、ウェンブリーでの試合終了のホイッスルと共に全て忘れ去られ、忍耐と忠誠が報いられた。

忘れたい記憶

ギャリー・スピードの死。今年一番つらい瞬間だった。彼ほどの人格者にはそう出会えないし、ミッドフィールダーとして成功し、素晴らしいプロフェッショナルで、ウェールズを若手選手たちと共に立て直していた。皆からあふれ出る悲しみは、彼がいかにポピュラーな存在であったかを物語っている。



スピードを際立たせていたのは、魅力的なフットボールをフェアにプレーするという、誰もが認める原則からだった。そして彼は信じがたいほどに落ち着いていたし、エゴの無いスターだった。彼を偲んで拍手が鳴りやんでも、悲劇はまだ続く。悲しみにくれる2人の息子たちは父無き人生を歩んでいかねばならないのだ。

10語で表す2011年

バルサを除けば当たりとは言えないが、イングランドはユーロ出場を決めた。ふう。

新年に向けて

・ルールを決める方々、ペナルティー・ボックスの設置検討を
・レフェリーたち、重要な判定についてはTVで発言を
・ウェイン・ルーニー、スタンドにいては役に立たないことに気づいて欲しい
・ロス・バークリー、引き続きデイビッド・モイーズのもとで修業を
・ラヴァエル・モリソン、大成できるのはサー・アレックス・ファーガソンに全てを捧げて、彼の言うことにしっかりと耳を傾けられればの話だ
・選手たちが疲労困憊になり、ケガでボロボロにならずに済むよう、ウィンターブレークの導入を検討すべき

++++

ということで、引用することの多かった彼の記事。こうした記事選びも、だんだんとメディア単位よりも、記者を基準に選ぶようになってくる。ある程度の数を目にしていると、目線やスタンスも分かってくるし、前回のスアレスの記事を書いてたスミス記者のような引き抜きも理解できるようになる。こういうところにも文化の違いを感じたり。

Wednesday, December 21, 2011

ルイス・スアレス - 礼儀正しく、丁寧、繊細な男

昨日8試合の出場停止と4万ポンドの罰金との裁定が下ったユナイテッド戦でのパトリス・エヴラとのいざこざや、先日のフラム戦での相手サポーターに対する振る舞いからダーティーなイメージが付きまとうリバプールのルイス・スアレス。裁定の前のものだけど、そんな彼を別の角度から捉えようとする記事を出したのは「インディペンデント」紙のロリー・スミス記者。つい最近まで「テレグラフ」紙に在籍していたはずが、いつの間にか"移籍"していたのだが、彼の記事はいつもしっかり書かれていて好感が持てるから、どこの所属でも良いから骨太に書き続けて欲しい。


++(以下、要訳)++

レフェリーたち、対戦相手、ファン、そして敵たちの全てがルイス・スアレスのことは分かっていると考えている。スアレスはアヤックスの共食い野郎で、アフリカン・ドリームを幾度となくコケにする男だ。

直近ではフラムのファンに対して明らかな怒りの感情と共に指を立て、より深刻にはパトリス・エヴラに対する直接の人種差別的な発言を責められている。彼はイカサマ師で悪党、そして災難のもとなのだ。

しかし、彼と共に育ち、彼の人格を形成し、彼と遊び、彼とチームメイトとなり、友達となった彼をよく知る人々に話を聞いてみると、そのイメージは崩れ始める。スアレスを描写するために使われてきた、様々な軽蔑的な悪口は、ほぼ全て覆されてしまう。

ナシオナルのユース時代からの仲間で今でも親友のマティアス・カルダシオは、誰もが共感したごく初期のスーパースターだったスアレスを思い出す。子供だったスアレスをスカウトしたディレクターのアレシャンドロ・バルビは、彼がヨーロッパで「理解し難い」と形容された評判に理解を示す。2人ともスアレスは「謙虚で親切、静か」だったし、今でもそうだという点で意見が一致している。

「彼との思い出の全ては優しさに包まれたものだ」と語るのはかつてマンチェスター・ユナイテッドでプレーし、スアレスのヨーロッパで最初のクラブとなったオランダのフローニンヘンでコンビを組んでゴールを量産したエリック・ネヴランドだ。「最初はそもそも言葉ができなかったし、落ち着くまではもうひとりのウルグアイ人のブルーノ・シルバと過ごすことが多かった。彼には難しい時期だったけど、ロッカールームではいつも笑ってたよ。凄く良い意味でルイスを忘れるってのは難しいことだね」

スアレスの一番最近の騒動の場を提供してしまったフラムで監督務めるマルティン・ヨルも意見は同様だ。アヤックス時代にスアレスを守る立場だったヨルは、スアレスを「本物のキャプテン」だった、と振り返る。

スアレスと共にスタメンに名を連ねるリバプールの面々も、これには同意するだろう。スアレスは長くスタメンに定着しているが、それは単に彼のイングランドへの適応を助けた南米人の仲間がクラブにいたからではない。彼や彼の家族は確かにマキシ・ロドリゲスやルーカス・レイバ、最近加入したセバスチャン・コアテスと過ごす時間が長いが、クラブにはスティーブン・ジェラードやジェイミー・キャラガー、ペペ・レイナといったアンフィールドの影響力ある強者たちがいるのだ。ダルグリッシュが「ルイーズ」と形容するこのストライカーへの愛情は本物だ。ダルグリッシュは、スアレスが初めてメルウッドのトレーニング場を娘たちと共に訪れた時の喜びの表情をよく覚えていて、それ以来ずっと笑顔を保ち続けていると信じている。

しかし、彼は常に笑顔なわけではない。フラム戦の後には、主審のケヴィン・フレンドから適切に守られなかったことや90分間にわたって彼に向けられた野次、敗戦の痛みなどから来る苛立ちから我慢の限界を超え、手袋をした手でクレイヴン・コテージにジェスチャーを作った。

彼はエヴラに人種差別的な発言を行ったとして責められているアンフィールドでのマンチェスター・ユナイテッドとの対戦の時には、不機嫌に相手と衝突しており、笑顔ではなかった。そして、FAからの調査を受け、「スペイン語の"negrito"のニュアンス」をもって自己弁護をしようとしている時には、全く笑顔ではないだろう。

もちろん、フットボールの選手がひとたびピッチに上がるとプライベートとは全く異なる、ということに驚きは無いし、スアレス本人もそれは認めている。「妻のソフィアは、僕が家でもピッチでプレーしている時と同じだったら、もう妻ではいないつもり、って言ってるよ」と笑う。しかし、その差が大き過ぎることがより詳細な調査へとつながってしまってもいる。

前出のネヴランドは「色々な人があれこれ言っている人間と、僕がプレーしたルイスが同一人物とはちょっと思えないね」と語るが、ひとつ明確な説明が続いた。「彼にとっては勝つことこそ全てなんだ」

これは、スアレスに出会ってきた人々に共通するテーマだ。ミランにも所属したカルダシオは「ウルグアイ人は決して敗北を受け入れない。それでもルイスは誰とも違っていたよ。14歳にして失ったボールは決してあきらめずに取り返しに行ってたよ。ある試合で、俺たち21-0で勝って、ルイスは17ゴール決めたんだけど、それでも一瞬たりとも止まらなかったね。彼は勝ったとは考えないんだ。いつだってより多くを求めるんだよ」

その点にしても、エリートのスポーツマンとしては決して珍しいことではない。スアレスの際立った特質を示す唯一の方法なのだ。あるオランダ人心理学者が、昨年11月にPSVアイントホーフェンのオットマン・バッカルに噛み付いた事件を調査し、原因は敗北への失望にあるのではないかと考えた。バルビは、フラム戦でのジェスチャーと同様、彼がそれをいかに真剣に受け止めているかということ、と見ている。

バルビは続ける。「ルイスは試合を感じ取るんだよ。こんなことはウルグアイじゃ起きなかった。アイツが退場になったことだって記憶にないね。いつも礼儀正しくて丁寧な男だった。でも、ワールドカップでジダンに起きたことを見れば、最高の選手でも時には我を失うこともあり得るんだろうね」

ジダンのマテラッツィへのヘッドバットは、スアレスに突き付けられている人種差別への責めに比べれば些細なことだ。スアレスに処分が下るようであれば、彼のイメージは一気に墜ち、イングランドでのキャリアすら危ういものになるだろう。リバプールのオーナーたちも、評決がクラブの評判にもたらす影響を懸念している。

カルダシオは、「小さな頃から凄く礼儀正しいし、エヴラを侮辱するだなんて信じられないよ」と語る。バルビも考えうる一番の強い言葉でこれに同意した。「今かけられている人種差別の疑いは、決してルイスがどういう人物か、という話と同じではないと保証できる」

ひとつの懸念は、勝つためには何でもするという男であれば、そういう手段に頼ることも考えられる、ということだ。カルダシオも、スアレスの絶え間ない衝動が時として「すべきでないことをする」ことにつながることは認めている。しかし、それはむしろシミュレーション -南米人はそれを狡猾さや抜け目の無さと表現したがるが- に当てはまると考えており、スアレスがそうした差別的発言での侮辱をするとは想像できない、と言う。

しかし、スアレスを見るイングランドの観客たちにとっては、彼は腹いっぱいのシミュレーションをする悪党であり、状況が異なる。友人には謙虚で礼儀正しいと言われる男が、プレミアリーグでは手に負えない子供扱いされているのだ。このような文脈の下では、ワールドカップでああした形でガーナを下したことを喜ぶ男が、先天的な狡猾さを見せた所でスキャンダルに巻き込まれるのは簡単に想像できよう。

スアレスは、そうした評判を受けてしまった最初の選手というわけではない。エリック・カントナ、クリスティアーノ・ロナウド、ディディエ・ドログバ…、彼らは皆、スアレスに集まってしまう視線とどう対処したら良いかアドバイスできるだろう。マリオ・バロテッリはスアレスの前に注目を集めたが、彼は試合と関係ない話に関心を持たれることへの当惑を雄弁に語り、それがピッチ上での彼への視線が他の選手と異なっていることの原因だと信じている。

ネヴランドは「イングランドはまた違うところで、外国人選手にとっては馴染むのが凄く難しいこともある」と語り、バルビはやがてそれはスアレスにイングランドから出ていくこと考えさせるだろうと続けた。「彼は繊細なんだ。周りの人が彼をどう見てるか、凄く心配していると思う」

ここでも考え方は二分されるだろう。スアレスをプレミアリーグに蔓延する疫病と考える面々にとっては、彼に処分が下るなら追放する良い機会だと考えるだろうし、これに反対するのは難しい。処分が無かったとしても、彼の評判に付きまとう汚点は、彼を追い出してしまうには十分なものだ。もちろん、逆の考えで、彼が出ていくとなれば取り乱す人もいるだろうし、それは彼が熱愛するアンフィールドだけではないだろう。

そして彼の友人たちにとっては、尽きることのない無念だ。カルダシオは「俺はルイスとプレーした8年間を忘れることはないよ。俺たちにとって、アイツは最も愛されて、皆心酔してきた選手なんだ。国全体にとっての偉大なる誇りさ」 ウルグアイにおいても、"シミュレーションする手に負えない子供"とは全く異なるスアレスがいて、人々はスアレスを知っていると考えている。彼らが知っているスアレスは、我々が知るに至ったスアレスとは別人なのだ。

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基本的には皆メディアを通じてしか分からないことだと思うんだよな。咀嚼の仕方なんだろうけど、結局今のイングランドのメディアが一気に叩きにかかってるところを見ると、そうじゃないだろ、と感じるところも出てきて…。擁護しようとか、そういう話じゃないんだけど。

Friday, December 16, 2011

アーセナルのレジェンドとなったティエリ・アンリと涙

先週のエヴァートン戦前に、アーセナルのエミレーツ・スタジアム横でご披露目となったティエリ・アンリの銅像。本人は自分の銅像を目にして涙を浮かべつつスピーチをした。


++(以下、要訳)++

赤と白のスカーフを首に巻いたティエリ・アンリは、救世主的とも言えるポーズの自らのブロンズの像を凝視して家族やファンに目を向けると、次第に涙が浮かんできて視線を反らさざるを得なくなった。



前にこれに似た感情を味わったのは、2007年にアーセナルを去った時だとアンリは断言した。その時には、誰も彼の涙など目にしなかったが、彼はここに戻って来た。そして今回の涙は全く恥ずべきものではないし、誰もがそれを注視した。

自分の人生とも言えるクラブのスタジアムの外で、銅像として不滅の存在になること。それは夢にも思わなかったことだ、とアンリは語る。

「心の底からアーセナルには感謝したい。今までにも言ってきたことだが、『ひとたびグーナー(Gooner)となれば、生涯グーナー』とこれからも言い続けるよ」と言うアンリの声は詰まっていた。

アンリの像は、アーセナルに最も多大な影響を与えた3人 - アンリ、トニー・アダムス、ハーバート・チャップマン - の銅像のひとつであり、クラブの創設125周年を祝う一環で建てられた。アンリにとっては、自分が常にクラブに対して感じてきたものを体現するものに感じられた。

重さ200kgの記念碑は、アンリがアーセナルにもたらした驚くべき226ゴールの中でも伝説的な、2002年11月のハイバリーでのスパーズ戦でのゴールを祝うポーズで、膝をついたスライディングで喜びを見せている。「これは僕がいかにアーセナルを愛しているかを示す完璧な例だよ。膝立ちをしてエミレーツ・スタジアムを向いてる - 僕のすぐ後ろ側にはハイバリー - とは驚きだよ」

※このトップ25ゴールの中では第5位がそのスパーズ戦のもの。

最初にこの名誉について聞かされた時にはからかわれているのだと感じた。125年の歴史を彩った偉大な選手たちを差し置いて?おい、冗談だろ?と代理人のダレン・ディーンに聞いたが、答はそうではなかった。

そして、会長のピーター・ヒルウッドが銅像を覆っていた赤い布を取り払うボタンを押すと、数百人の熱きファンたちが拍手と共に歌い始め、アンリの表情は子供のようなはにかみに変わった。確信を得るために、アンリは愛娘のティーを連れて、スタジアムの南東に立つその記念碑の周りを歩いてみた。

「僕はキャリアの中で様々なものを勝ち取る幸運に恵まれてきたけど、これはその中でもトップだ。現実なんだと思うと圧倒されそうだよ」ヒルウッドが、気に入ってくれたか、とすかさず聞くと、アンリは「ああ、もちろん」と会長に断言した。

もしかすると、アーセン・ヴェンゲルも認めるクラブ史上最も偉大で博識な監督だったチャップマンや驚くべきキャプテンだったアダムスと並び立つという超然たる事実が、アンリに涙を流させたのかもしれない。

しかし、34歳にしてアンリは現在もニューヨークでゴールを量産しており、マーティン・キーオンが先月、ローン加入で仕事ができるのではないかと語っていたくらいだ。生きた伝説となることについてアンリは次のように語った。「前にここまで感情的になったのはアーセナルを去ったときだった。涙が出たけど誰にも気付かれはしなかった。それでも僕はアーセナルを愛しているし試合も観る。負けるた時にはいつだって痛みを感じるよ。いつだって僕は自分の人生のクラブに戻ってくるさ。一番良いのはすべての偉大な選手たちの一部を集めてひとつの銅像にできることなんだけどね。選ばれたことは本当に名誉に感じているよ」

ヴェンゲルが群衆になぜアンリでなければならなかったのかを説明した。「彼のセンセーショナルなキャリアは単純にアンリ本人が持っていた違いによるものだ。彼には、選手であれば誰もが持ちたいと夢見るもの - フィジカル能力、技術レベル、優れた知性と献身 - の全てを持ち合わせていた。この世界で勝者となるために必要な全てを備えていたのだ」

そして、彼がモナコで最初にティーンエイジャーとして育て始めたアンリに向かってこう言った。「ティエリ、よくやったよ。おめでとう。君は本当にスペシャルだった」全くもってスペシャルだった。そしてスペシャルだっただけにいつの日かエミレーツに監督として戻ることがあるか、という疑問が湧いてくる。展望を聞かれたアンリは、ヴェンゲルの横で笑って答えた。「いつかはね。でもいつ彼が辞めるって言うんだい?」

ヴェンゲルも「まずは、彼を選手として見ようじゃないか。彼のキャリアは終わってないのだしね。しかし、私の下にいた多くの選手、例えばティエリやパトリック・ヴィエラには監督になる資質があると思っている、というべきだろう」と返した。

ヴェンゲルはアーセナルでアンリにコーチ修行をさせるだろうか?「もちろん。だが彼は急がないとね。私も決して若くはないから」その通りだ。そして、それはもうひとつの銅像がやがてこの3つに加わるはずであることを思い出させる。以前、ヴェンゲルの半身像が幹部向けの入口に作られた時、彼は「あれは誰だ?まるでもう死んだみたいだな」と語っていたことがある。

アンリはエミレーツのアーセン・ヴェンゲル・スタンドに座ることについては、「ああ、このエヴァートン戦で勝つためにね」と完璧な答えをヴェンゲルに返した。ヴェンゲルの銅像がアンリの横に並び立つ日はまだ先で良さそうだ。

++++

いい話。選手にとっても、心のクラブをこうして持てることは幸せなことだと思う。

Friday, December 9, 2011

ただいま最高潮のスパーズ

2回続けてのスパーズ関連。今回はアメリカの経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に出てきたスパーズの好調ぶりに関する記事。こんなメディアにまで出てくる、ってくらい、今の好調さが際立っているのだと思う。前回のキングのインタビュー記事が内側からの洞察とすれば、これは外側からの目だけど、語られてる論点はメンバー固定のメリットとリスク。※記事は先週末のボルトン戦の前のもの。


++(以下、要訳)++

シーズンも4カ月目に入り、否定し難い驚くべきコンセプトがここにはある。トッテナム・ホットスパーは、プレミアリーグのタイトル挑戦者のペースに食らいついているだけではなく、彼ら自身がその一員となっているのだ。

いまトッテナムはイングランドで最も熱いチームだ。スパーズはここ10試合で9勝1分け、30ポイントのうち、実に28ポイントを稼ぎ出しているのだ。チームは現在1試合消化が少ないながら、マンチェスター・シティと7差、マンチェスター・ユナイテッドと2差の3位につけている。

伝統的なスタイルを採るハリー・レドナップと、両ウィングのスピードを活かしたワイドな戦い方で、スパーズは全てのクラブが2枚の快速ウィングを置いてタッチライン沿いを駆け上がり、相手ディフェンダーを舞うように交わしてエリアをクロスで切り裂いていた時代へと先祖返りをしている。

この驚くべき快進撃に、ファンたちもスパーズが史上初となるリーグ優勝とFAカップの2冠を成し遂げた栄光の1960年代と今のチームを並べているくらいだ。しかし、それは今のスパーズを古い時代になぞらえる唯一の理由というわけではない。スパーズの今季ここまでの台頭は、同様に古い哲学とも言える「勝っているチームをいじるな」という哲学によって成し遂げられている。

他のチームのスタメンの選び方など気にしない。プレミアリーグへのメンバー登録が締め切られた8月31日以来、トッテナムは10試合で15人の選手しか先発で起用しなかった。同じ期間で比較すると、スウォンジーと並んでリーグ最少の数字だ。全試合で先発したのは7人、1試合を除けば9人、というのは20チーム中最高の数字になる。対照的にマンチェスター・ユナイテッドは22人、チェルシーとアーセナルは20人を先発で起用している。

今はスピードと激しさが特徴の現代サッカーでは試合数も多く、強豪チームの多くにとってはローテーションの採用が最もトレンディな戦い方だ。そんな時代だけに、トッテナムが成し遂げていることは特筆すべきなのだ。

同じ11人を毎週土曜日に起用し続けて、チームをタイトルへと導くなどというのは、もはや古めかしささえ漂う戦い方であり、逆に革命的なものとしても通用しそうなくらいだ。レドナップは、「だからこそ、我々はいまリーグで上手くやっているんだ。そんなに沢山代えていたら難しいと思うね」と語っている。

勝ちチームを変えない、というのがいつも急進的な考え方だったわけではない。1981年にアストン・ヴィラがタイトルを勝ち取った時に、当時の指揮官ロン・サンダースはシーズンを通じて14人の選手しか起用しなかった。リバプールは1984-85シーズンにリーグとヨーロッパのカップを勝ち取るのに15人の選手しか必要としなかった。

しかし、時代が変わって年中連戦続きとなると、トップクラブの監督たちは皆おせっかいをするようになった。昨シーズンタイトルを勝ち取ったマンチェスター・ユナイテッドは、2試合続けて同じスタメンで臨んだのは僅かに4度だった。かつてリバプールを率いたラファエル・ベニテスは、99試合連続で異なるスタメンを並べた。

「どこであれトップチームにはメンバーが揃っていて、8人、9人、10人と選手を入れ替えることができる。シーズンは厳しいものだし、ごく普通のことだろう」と、今季既に19人をスタメンで起用しているマンチェスター・シティのロベルト・マンチーニは語る。

しかし、スパーズは安定したメンバーでも勝てると言うことを証明したといえる。スパーズはここ5試合を見てもスタメン変更は3人だけで、原因は全てケガだ。そしてメンバー選択でのこの継続性によって、輝かしい成績を現在残しているのだ。

レドリー・キングとユネス・カブールは中央の守備で強固な連係を見せており、過去10試合中9試合で共に先発、この間スパーズは僅かに7失点だ。ピッチの反対側では、ラファエル・ファン・デル・ファールトとエマニュエル・アデバヨルが2人で13ゴールを挙げ、中盤の軸となっているスコット・パーカーとルカ・モドリッチがスパーズのボール支配率に貢献している。

無論トッテナムの連勝には、単に同じメンバーをピッチに送り出していること以上の理由がある。そのうちの多くは、現在絶好調のギャレス・ベイルのパフォーマンスにあるだろう。このウェールズ人ウィングは、強さ、スピード、ワイドな位置からの正確なクロスによって、ヨーロッパのサッカー界で最も欲しがられる存在となっている。

加えて、スパーズは今季のチャンピオンリーグ出場を逃し、グループリーグ敗退寸前のヨーロッパリーグにはメンバーを落として臨んでいる。タイトルを狙う他のチームが週の半ばにヨーロッパの強豪と相まみえている間、トッテナムのスタメンの面々は毎週1試合ずつこなすだけで済んできた。

トッテナムが上昇傾向にあるとしても、これだけ少人数の選手に頼ってタイトル争いに残り続けられるか、という疑念はある。シーズンの疲れが積み上がり始めれば、ケガでカギとなるメンバーが出場できないケースも出てくるだろうし、その時に頼るのはそれまで出場時間の少ない選手だ。3-1で勝利したウェストブロミッジ戦では、モドリッチとファン・デル・ファールトを欠いたが、やはりそれまでの流暢なプレーは鳴りを潜めた。

そして10数人の選手だけが先発するとしたら、25人のメンバーの間での不満噴出をどう避けるのかという問題が出てくる。ウェストブロム戦では、ジャメイン・デフォーがファン・デル・ファールトの代わりにプレーしてスパーズの2点目を決めもしたが、彼自身、サブという立場を受け入れるのには難しさを感じていると語っている。

それでも、大半の選手たちはチームが勝ち続けている限りにおいて、ベンチにいることも受け入れると語っている。ディフェンダーのウィリアム・ギャラスはこう語った。「ウチには俺みたいに毎試合プレーしたと思ってる強力なメンバーが揃ってる。時に受け入れることは難しいし、挫折感も味わうが、やがてそれは受け入れるようになるんだ。より重要なことはチームが勝っているということだからな」

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記事の言う通り、ここにきてキングが欠場し始めてるのは気になるところだけど、そんな時に最後のところでコメントしてるギャラスが穴を埋めているのは心強い。年末年始の過密日程と未消化のエヴァートン戦をこなしたところでどの位置にいるか、楽しみなところ。