Saturday, June 30, 2012

柔軟性を欠いたイングランドの「遅れ」

ユーロ2012でのイングランド代表は、直前でのファビオ・カペッロ辞任もあり、今までにない期待値の低さで大会入りした。決勝ラウンドには勝ち上がったものの、イタリア相手に防戦一方でPK戦となり、ベスト8で散って行った。

まとめ記事も大量に出回っていて、イングランドにもピルロがいれば上に行ける、というようなものから、4-4-2の限界、さらには根本的な技術の不足を指摘して育成段階からの改革を唱えるものまで、議論好きのイギリス人はとことん語っている。

ここで選んだのは、プレミア最終節でのスタジオでの絶叫も記憶に新しい、元アーセナルのポール・マーソンによるもの。普段のリーグ戦の勝敗予想とか、このオッサン、テキトーだな、と思わせるものも多いんだけど、このコラムは割と納得のいくもの。

 
++(以下、要訳)++

人生の中のどんな仕事であれ、柔軟でなければならない

あなたが装飾をするペンキ屋で、家のペイントを違う方法でやってくれ、と言われればそうしなきゃいけない。あなたが建築家の場合も同様で、違うタイプの家が良い、と言われれば、そうすべきだ。

ロイ・ホジソンは優秀な監督で人間的にも素晴らしいが、イタリア戦ではただ柔軟性に欠けていた。彼は厳格な4-4-2に臨み、イタリアが襲いかかってきても、それを変えることはなかった。

試合を動かしているのがアンドレア・ピルロだ、ということは試合が始まってすぐに明らかになった。世界を旅した経験ある監督として、そのシステムが誤りであると気付いて、変えねばならないことにも気付いたはずだろう。

誰かをピルロにつけねばならない。彼がどこにいても自由に動き回ってパスを出せるような状況は好ましくない。私は44歳だが、それでも誰も寄せて来ないなら、今でもトップレベルでフットボールをすることができるし、この試合のピルロほどのスペースを与えられれば、どこにでもボールを出すことができる。

我々は何かを変えねばならないのだ。中盤には3枚必要で、ジェームス・ミルナー を真ん中に置いてピルロに付けるべきだった。ミルナーのキャリアを振り返ってみれば、彼が一番良かった時期はアストン・ヴィラ時代であり、その頃の彼は中盤の真ん中でプレーしていた。右ウィングではない。

ミルナーはハードワークができるが、国際レベルのウィンガーではない。それでも、彼に「ピルロにつけ」と指示するのは難しいことではなかった。ピルロは33歳、もう走れないんだ! 実際、去年ACミランからはタダで放出されてる選手だ。

イタリアが決勝でスペインとやることになれば、ピルロは10回とボールに触れることはできないだろうし、試合終了前に交代させられるはずだ。 しかし、彼は我々に彼のショーを見せつけ、PKは彼がいかに自信を持っているかを証明しただけだった。

私がプレーした監督の中で、一番の戦術家はジョージ・グラハムとハリー・レドナップだった。彼らはアーセン・ヴェンゲルのような監督たちよりも頭一つ抜きんでていた。

ハリーだったら、このことにはすぐに気付いていただろう。彼だったらピルロを自由にさせ続けるようなことはなかった。心配なのは、ホジソンがそれに気付いているようには見えなかったことだ。


後方遥か彼方

ただそこに座って「イングランドは不運だった」などということはできない。私は、我々は100万マイル遅れをとっていると感じている。

私はあのイタリア戦からポジティブな気持ちにはなれなかった。相手は、今年に入ってからアイルランドに勝つまで勝てなかったチームだったが、グループリーグの3試合で見せた良いプレーは姿を消してしまっていた。

フェアに言っても、私やこのコラムを読んでいる皆さんも、グループリーグの試合からはそれを感じ取っていたはずだ。フランスは悪くないチームだったが、スウェーデン(ズラタン・イブラヒモビッチ以外に、イングランド代表に割って入れるメンバーがいただろうか?)やウクライナは、ワールドクラスには程遠い。

イタリア代表の面々のうち、半数はイングランド代表にも入れるだろう。 多くてもだ。それでも彼らは31本のシュートを我々に浴びせた。来週バーネット(訳注:4部相当のロンドンのクラブ)がオールド・トラフォードを訪れても、それだけのシュートは打たれないだろう。

いずれにしても、我々にはワールドクラスのセンター・フォワードがおらず、どうやったって大会を勝ち抜くことはできない。(私はルーニーをセンター・フォワードだとは思っていない。彼は10番の選手だ)

最前線にワールドクラスが必要なのであり、それはアンディ・キャロルでもダニー・ウェルベックでもない。ジャメイン・デフォーは今でも我々の最高のセンター・フォワードであり、彼がなぜ出番を得られないのかは、私の理解を超えている。

それともうひとつ。彼であれば、確実にPKキッカーに名乗りを上げていただろう。

キャロルがそうしていなかったとしたら、デフォーは困惑しただろう。3,500万ポンドの男がPKを蹴りに行かないなんてことがあり得るだろうか?10歳でニューカッスルの日曜早朝フットボールでプレーしている頃から、彼の仕事はゴールを決めることだったはずだ。それでも彼はPKキッカーにならなかった。

ミスをしたのは残念に思うが、アシュリー・コールが蹴ったことに異論はない。しかし、問題はそこではなく、彼は世界最高の左サイドバックではあるが 、彼の仕事は相手を止めることであって、ゴールを決めることは彼の自然の所作ではないということだ。

キャロルは3,500万ポンドでゴールを決めるために連れて来られた選手であり、PKの1番手には最高の選手を持ってくるものだ(リオネル・メッシを順番が回ってくるかも分からない5番手にはしないだろう)。

そして、この点で誰に自信があったのか、という議論を私に吹っ掛けることはできないはずだ。キッカーとなったアシュリー・ヤングは悪夢のような3試合を送っていたからだ。


才能

我々がこの先どこに向かうのかは分からない。

アカデミーについて語る者も多い。ここには何百万ポンドもの資金がつぎ込まれているが、そうしたアカデミーに目を向けてみれば、経験のない18歳が子供たちを指導している、という場面に度々遭遇する。

そして、才能は教えられる類のものでもない。私は、ウェストハムにいた若きジョー・コールと対戦した時のことを今でも覚えているが、息をつく暇も無かった。彼は私に色々仕掛けてきたが笑うしかないくらい素晴らしかった。

今の彼を見てみろ。彼がボールを持てば、 ホールは完全に彼のものだ。FAのコーチング・マニュアルを見てみれば、我々が次のジョー・コールを作れはしないことはすぐに分かるだろう。若い選手が出てきているのか、私には良く分からないが、いたとしても、それは決して指導の賜物ではないだろう。

そろそろ自分たちの強みを発揮することを考えるべきだろう。毎週土曜日、プレミアリーグでは早いテンポでプレーし、シュートやクロスがそこかしこから飛んでくる。しかし、代表レベルになると、途端にパスを40本つながねばならないと考えてしまう。イタリア戦、我々はパスを3本つないではボールを失っていたじゃないか!

自分たちの強みを使ってプレーすべきだ。私はテレビの解説者であり、誰も私に脳の手術ができるとは思わないだろう。フットボールだって同じことだ。

今の我々は落第だ。ワールドカップに出られるとすれば、進歩はしているだろう。シンプルなことだ。しかし、ワールドカップで優勝できるとはとても思えない。ブラジルで大会を制することがあれば、それは過去最大の奇跡だ。


マーソンの意見

泣きごとを言うような状況ではないが、それでも今の我々が十分だとはとても言えない。それは明白なことだ。そして、ワールドカップの予選を控え、我々はもっと柔軟になる必要があるのだ。


++++

確かに時間は無かったのだけど、大会が始まる前からチャンピオンズリーグでのチェルシーにあやかるかのように、「気持ちのこもった鉄壁守備」がメディアでも前面に出てきて、その期待値の低さも相まって、試合を支配できないことが前提のようになってはいた。

守備の約束事をまず決めて、そこから先は前線任せ、ってのが今回の基本だったと思うし、4人の2ラインはホジソンがウェストブロムでも散々見せていた形だった。それを高く保てなかったのは勿論習熟度の違いも影響したと思う。アシュリー・ヤングを重用しながら、フォワード扱いで起用したのも、ウォルコットが先発しないのも、2ラインでのブロック作りを優先したからだろう。

確かにフレキシブルには程遠かったけど、選択肢も無かったのだろうな、ホジソンには。

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