Wednesday, August 29, 2012

ミカエル・ラウドルップが魅せるエレガントなスウォンジー劇場

昇格組ながらバルセロナを彷彿させるパスサッカーで昨季のプレミアで躍進したものの、その結果、礎を築いた監督のブレンダン・ロジャースをリバプールに引き抜かれたスウォンジー・シティ。その監督の座を継いだのは、かつてユヴェントスやバルセロナ、レアル・マドリッドで活躍し、後にはヴィッセル神戸でもプレーしたミカエル・ラウドルップ。

監督としても、ブレンビー、ヘタフェ、スパルタク・モスクワ、マジョルカとキャリアを積み上げてきていたが、次に選択したのがこのスウォンジー・シティだった。就任時のインタビューでも「クラブのことは良く知らなかったから事前に調べた」と言っていた一方で、「フィロソフィーに触れて、是非やりたいと思った」との判断もしていた。

主力だったギルフィ・シグルズソンやジョー・アレンの退団もあって、残留に向けて苦戦が予想されたものの、フタを開けてみればいきなりの開幕2連勝。この舞台裏を開幕2戦目のウェストハム戦を取材した「テレグラフ」紙のヘンリー・ウィンター記者が探った。



++(以下、要訳)++

歓喜に満ちた土曜日のリバティー・スタジアムの前半、ルーズボールがスウォンジーのベンチへとラインを割って向かって行くと、我々にはハッとさせられる瞬間が訪れた。

ボールを簡単にコントロールして少々弄ぶと、巧みにスローインのためにボールを取りに来たケヴィン・ノーランに蹴り返した。試合をテンポ良く続けさせたこの見慣れた顔はミカエル・ラウドルップで、その華やかな現役生活で彼をアイドルたらしめた、かつてのエレガントなタッチを見せつけた。

偉大なフットボーラーは、しばしば監督としては失敗しがちだ。自分では簡単にプレーできてしまうために、自分よりも才能に恵まれない選手たちとの仕事への我慢を欠いてしまうからだ。それでも、ラウドルップには落ち着きと穏やかさ、知性がある。彼の父親にも監督経験があることは、彼がこれだけスムーズにスウォンジーに馴染んだことの説明になるだろう。

彼の小さな存在感は、プレミアリーグにより多くの星屑をバラ撒くことになるだろう。彼は自身の持つ尊厳も垣間見せた。ノーランがスローインを急ぐ姿を目にすれば、ボールをそのまま流れさせてプレーを遅らせることもできたが、それはこのデンマーク人のスタイルではないのだ。

いずれにしても、非常に統率が取れたスウォンジーに対してウェストハムはとにかく出来が悪く、スウォンジーがポゼッションを取り戻して、現在のプレミアリーグの順位表の頂点を周囲にアピールするのは時間の問題だった。これを10年前に想像するのは、よほどの妄想だったろう。

ラウドルップの就任前にも、スウォンジーではロベルト・マルティネス、パウロ・ソウザ、そしてブレンダン・ロジャースによって良い仕事が成されてきていた。ポジティブな原理原則が植え付けられてきていたのだ。後半のプレーのひとつは、そのままロジャースのスクラップブックにあるはずだ。44本のパスが2分間に渡ってつながれ、ウェイン・ルートリッジがゴールに向かって走るところを、ジョージ・マッカートニーがようやくスライディング・タックルで止めたのだ。

これを証明するのが開幕の5-0で圧勝したQPR戦で、ラウドルップはロジャースの戦術を微調整していた。中盤で喜んでパスを回すのは同様だったが、スウォンジーはより早いタイミングでギアを入れ、鋭さを増していたのだ。

彼らはジョー・アレンをリバプールに引き抜かれ、スティーブン・コールカーをスパーズに返し、スコット・シンクレアもマンチェスター・シティに狙われているが、ラウドルップは勢いが失われてはいないことを確信させた。監督は、ゲームプランの有効性や、移籍市場での成否、人身掌握術で評価されるが、ここには全ての要素が凝縮されていた。

まずは戦術。ロジャース時代のウィングのネイサン・ダイアーとシンクレアがライン沿いを突き進むケースが多かったのに対し、ラウドルップ下でのダイアーとルートリッジは中に切り込んでも来て、ミチュやダニー・グラハムの近くでプレーする。これが両サイドバックのアンヘル・ランヘルとニール・テイラーに上がってくるスペースをもたらすのだ。実際、2人は輝いた:ランヘルは先制ゴールを決め、テイラーもヤースケライネンに弾きだされたものの、良いシュートを放った。

ラウドルップの賢く選手を買う能力は、ミチュの影響力あるプレーからも見てとれた。200万ポンドでやってきた彼は、リオン・ブリットンとダニー・グラハム、中盤と攻撃のリンクマンとして機能し、スウォンジーに一層の流動性をもたらした。何度も自陣に引いてボールを受け、前を向いてダイアーにスルーパスを出すと、これがランヘルの先制ゴールにつながった。また、ジェームス・コリンズの無茶なバックパスをかっさらうと2試合で3つ目となるゴールを決め、得点力があるところも見せている。

ラウドルップはプランBの必要性も説いていたが、時折アシュリー・ウィリアムズがグラハムへとロングボールを繰り出していた。昨季であれば、スウォンジーのセンターバックは左右にボールを回してダイアーにボールをつないでいただろうが、こうしたプレーはよりダイレクトだ。スウォンジーはラウドルップの下で様々なスタイルを有効に取り入れていっている。

選手たちはすぐにラウドルップを監督として認め、支えている。ピッチを華麗に舞った最も有能なフットボーラーとしての名声も理由のひとつだろう。ウェストハムの選手同士が衝突したとき、その時間を活かしてラウドルップはテイラーを呼んで静かに指示を与えていた。監督に惹きつけられているテイラーの表情が、いかにこの新監督がドレッシングルームで尊敬を集めているかを物語っている。彼が練習で5対5に加わる時などは、特別な瞬間なのだろう。

柔らかな口調は、些細なことで騒ぎ立てるスタイルとは一線を画するが、それでもハーフタイムにはこう指示をしていた。「ウチは2-0でリードしている。向こう(ウェストハム)が攻めてきたのはどこだ?セットプレーだ。だからエリアの近くやサイドでファウルはするな」。ハーフタイム後のスウォンジーの守備はより堅実になっていた。決して高さがある方でもフィジカルで勝負するタイプでもないが、スウォンジーは明らかにセットプレー時の守備について、ラウドルップのアシスタントであるエリック・ラーセンの特訓を受けていた。

選手時代同様、ラウドルップはほとんど手立てを誤ることはない。

抜け目ない会長のヒュー・ジェンキンスの勧めもあって、クラブのレジェンドであるアラン・カーティスのクラブでの役割を維持するだけでなく拡大した。こうして新たにやってきた自分がクラブの理解を早々と深めると同時に、スウォンジーのサポーターたちを喜ばせた。グラハムが3点目を決めると、ファンは完全にパーティーの雰囲気になった。

ラウドルップは「特にファンにとっては、フットボールとは夢であり感情そのものだ。しかし、ピッチを含めてこちら側にいる人間にとっては、そこに感情はあるにせよ、夢を見ているわけにはいかない。現実を生きなきゃいけないんだ。月曜になれば、次の相手、バーンズリーのことを考えるんだよ」と語った。ラウドルップがこうして監督としての能力に磨きをかけ続けるならば、その先にはバルセロナがあるかもしれない。彼は見るからにスウォンジーでの生活を楽しんでいるが、その卓越した腕前を見せ続ければ、活躍の場は自ずとより緑の生い茂った場へと移っていくだろう。ラウドルップは穏やかな男で過去の栄光で威張るようなことはしないが、それらを避けることはできない。

ウェストハム戦のマッチデー・プログラムでQPR戦の勝利を振り返り、ラウドルップは「5-0はスペインでの自分を象徴するスコアラインで、俺には皮肉だ」と記した。バルセロナではレアル・マドリッドを5-0で下した試合の中心選手だった。そして、そのクラシコの反対側へと移った後、ラウドルップはレアルがバルセロナを5-0で粉砕するのを助けた。

「ヴァレンシアで小さな息子を連れた父親に出会った時のことをいつも思い出すんだ。その父親が、俺が誰か知っているか息子に聞いたんだ。息子は父親を見て嫌な顔をすると、俺の名を言うこともなく『5-0、5-0』って答えたんだ」。今のリバティー・スタジアムでは、確実に誰もが彼の名前を口にしているはずだ。

++++

自分が海外フットボール的に物心がついた頃には、ラウドルップはレアルでイヴァン・サモラーノとプレーしてた(NHK-BSで放送があった時代)けど、そのラウドルップが日本に来たときには随分驚いた。そんな勢いで、次にビッグクラブを率いるであろう前には、日本でも監督やってみて欲しいよな。

それにしても監督のロジャースだけでなく、主力も次々と抜かれてもこうして前評判をひっくり返すんだから面白い。前半戦で勢いがある昇格組というと、終盤に失速するケースが多くて(ハル・シティ、ブラックプール然り)、実際昨シーズンのスウォンジーも終盤は失点が増えて不安定ではあった。一巡目を乗り切ったとして、後半戦どうなるか、そこで記事でウィンター記者も触れている「多様性」が効いてくれば良いのだけど。

オマケ:開幕戦で大勝した後の記者座談会。


ここでは、この先スウォンジーには「雨」の時期がやってくるとの見解も。(他にもスコット・シンクレアがシティに行く意味が分からんとか色々・・・。)

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